神経型分子ネットワークの構成要素となる分子について、微細加工と自己組織化を利用した少数(単一)分子電気伝導計測を行っています。近年、単一分子計測は著しく発展しましたが、その結果、分子を流れる電流は、電極-分子間結合に大きく左右されること、さらに電極-分子間結合の制御は大変難しいことがわかってきました。そこで、我々のグループでは、絶縁的な疎結合を介して、共鳴トンネリングによる強い非線形性を示す分子-電極システムについて研究を進めています。微細加工により作製したナノギャップ電極への金微粒子架橋を用いることで、温度変化が無く、ホッピング伝導が混じらない純粋な共鳴トンネル伝導の観測に成功しました。急峻な立ち上がり特性は神経型分子ネットワークの構成に欠かせない特性です。さらに、強い非線形性だけではなく、神経の記憶機能に対応するヒステリシス特性の発現を目指して、混合原子価状態を持つ分子に焦点を絞って研究を進めています。
絶縁体上に配置されたナノスケール物質(合成分子、微粒子、タンパク質など)において、光あるいは電場刺激により生成した電荷の移動と消滅を、空間的・時間的変化をナノスケール、ナノ秒の空間時間分解能で画像化する時間分解静電気力顕微鏡を開発しました。
ダイナミックモードの走査プローブ顕微鏡では、探針は振動しています。そこで、この機械的振動と、光励起のタイミングを合わせることにより、ポンプ-プローブ法のように、時間分解測定が可能となります(探針同期法)。有機太陽電池、金属微粒子のプラズモン励起によるホットキャリアの分離過程、ナノスケール多極電極を持つ分子ネットワーク型デバイスの電荷追跡などのテーマで研究を進めています。
自己ドープ型ポリアニリンの電荷移動:左の電極電位をON/OFF C60/MDMO-PPV 二層膜の光誘起電荷の生成と消滅
生命はノイズを用いることで、熱レベルの小さなエネルギーをうまく活用しています。生命機能を模倣した人工系を構築するためには、集積可能かつ独立したノイズ発生源が必要です。ノイズ発生装置に頼ることなく、分子物質の物性に根差したノイズ発生を探求しています。自己ドープ型ポリアニリンの分子細線をシリコン表面に形成することにより、半導体表面における光起電力をノイズに変換することに成功しました。
軽量・柔軟・省エネルギー性能に優れた特性を生かし,有機分子(有機半導体)が発光素子(有機EL)をはじめとする先進光デバイスの材料として社会で広く活用されています。有機分子/電極界面に着目すると,励起された電荷の挙動は電極表面の影響を大きく受けるます。このため,発光をはじめとした,界面におけるさまざまな機能発現機構の解明には,基礎科学の視点からも興味がもたれます。たとえば,(1)有機分子/電極界面において,両者のエネルギー準位(電荷の通り道)はどのようにつながり,それらの準位がどのように発光に関わるのか?(2)電極から注入された電荷はどのような時間スケールで有機層を動き,発光(脱励起)にかかわるのか?-といった未解明課題があります。また,発光には分子が作る超構造や,2次元膜がもつ特異な電子状態も影響します。そこで,我々は走査トンネル顕微鏡/分光(STM/STS),低速電子線回折(LEED),2光子光電子分光(2PPE))を駆使・併用してこれらの課題解決に取り組んでいます。
生体が放出するガス(呼気、皮膚ガス等)には1800種以上の分子が含まれるが、殆どは分子量が100以下の低分子量分子です。生体から放出されたガス分子は生体内反応もしくは腸内細菌により生成した代謝産物であり、病態や酸化ストレス疾患に関係した生体内代謝情報を多く含んでいます。我々はレーザー分光法を用いて生体ガスを超高感度検出する測定装置を開発し、非侵襲病態診断法の開発を目指しています。
並進エネルギーの低下に 伴い、反応を支配する自由度は、動力学的因子から相互作用因子へと移行することが期待されます。我々は、複数の単結合を有し比較的自由に互いに異性化可能な 多数の構造異性体を持つ生体分子の反応における、構造緩和や反応過程の統計性と選択性の解明及びその動力学的因子と相互作用因子との相関の解明を目指し、 ラジカルや生体分子の並進冷却と構造異性体選別のための新規手法の開発を進めています。これらの分子線と液体ビームとの組み合わせにより気液界面立体ダイナミクスの研究を推進します。